口内炎に醤油が染みる小旅行

口内トラブルの見本市

 

 口内炎が出来た。下唇の左側の違和感に朝起きて気づいた。ストレスや栄養不足などで口内炎はできるらしい。鏡の前でチンパンジーがびっくりするくらいに唇をひん剥いてその様態をまじまじと観察した。真ん丸な皮膚の異常。今までの人生で数多くの口内炎をこさえてきたが、この特殊な痛みにはなれないものである。

 そのせいもあり、同じ個所を唇で何回か思い切り噛んだせいで、今では5つくらいの傷口が出来てしまっている。鏡で経過を観察するたびにその異常さに、むしろ面白みを感じてしまうほどである。おそらく食事のときにその傷を意識しながら顎を動かしているせいで、なおのこと傷を作っている。通常の傷口であればオロナインを塗って絆創膏を貼っていればいつの間にか治っているものだが、今回に限って言えば治るごとに新しい傷を作り続けているので、おそらく2週間くらいは同じ個所を痛めている。

 別件ではあるが、子供のころから顎が鳴る「顎関節症」でもある。痛みを伴うことはまれであるが、顎を鳴らす癖がついていて、いつでも違和感が付きまとっている。また最近抜歯をしたけれど、以前までは右上の親知らずが今になってメキメキ生え出してきて、皮膚を貫く痛みで普通の生活を送るのには厄介すぎる状態でもあった。さらに、冷たいものが苦手で、おそらく知覚過敏だと思う。僕の口関係の疾病(症状)は常に僕の頭の中の1割くらいを支配している。

 

海鮮丼は、うまいが痛い。

 

 休日に彼女と小旅行に出かけた。電車で数十分揺られて他県に赴いたが、残念なことにその日の僕の体調は芳しくなかった。熱があったわけではないけれど、お腹の調子がすこぶる悪かった。朝、トイレに入ったとき、「今日は波乱の予感がする」と思ったけれど、その予測は見事に当たった。電車の座席に座っているとき、何度目かの便意の波がやって来て、冷や汗が止まらなくなった。彼女に断りを入れて次の停車駅でトイレに走った。

 田舎だったので電車の本数が限られており、ドラッグストアでストッパを買った後、1駅先の目的地まで歩くことにした。そもそも昔から頻尿気味でもあり、トイレに行く回数が彼女の3倍くらいはある。旅行のたびに僕がめちゃくちゃトイレに行くから、彼女もこの奇行にはなれたものである。申し訳ないと謝りながら、他愛のない話をしながら僕たちはてくてくと歩いた。

 昼ご飯をどうするかの話になって、彼女がインスタグラムで周辺のご飯屋さんを探す。ここの海鮮丼があるお店がいい、と言ったものだから、僕は内心どきっとした。今の僕は口が傷だらけなので、醤油が恐ろしく怖い。だけど完全に立場が下になった僕からすれば何の反論の余地もなく、そのお店に入ることになった。海鮮丼が売りのお店で海鮮丼以外を頼むなんてことは僕にはできない。何なら肉より魚の方が好きな僕だけれど、醤油を垂らした刺身の本当の感想は「痛い」だけど、ぐっとこらえて美味しいねなんて無理に笑った。左側を出来るだけ避けてもぐもぐする海鮮は、うまいが痛い。一方であら汁は、うまいし痛くなかった。

 

「健康」とかいう当たり前の話

 

 口内炎が出来たら、チョコラBBがいいらしい。果たしてどんな成分が入っているのかは分からないけれど、おそらくビタミン的な何かが入っているのだろう。今はチョコラBBとビタミンCの錠剤を毎日飲んでいる。毎日これらを飲むたびに、早く治りますようにと唱えながら水で流し込んでいる。ただ、時折新入りの傷が登場するので、治りかけと真新しい傷が混在しつづけているが。なんとなしに舌の先でその傷群(?)を確認する癖が最近できてしまった。

 昔、船乗りたちはビタミンC不足によって引き起こされる「壊血病」と呼ばれる症状に悩まされたらしい。昔、ビタミンCについて調べたときに驚愕の事実に目をひん剥いた経験がある。人間はビタミンCを食べ物によって摂取する必要があって、だからこそ僕が今飲んでいるような錠剤が販売されているわけである。動物にとってビタミンCというものは必要不可欠なものであるが、実はほとんどの動物がこれを体内で生成することが出来るらしい。今人類が生き残っているということは、つまり生活圏内でビタミンCを摂取できる環境で僕たちの祖先は生きながらえたということである。なんとも不思議な話ではなかろうか。

 今必死に錠剤を丸のみしている僕たちはなんと哀れなのだろう。そもそもの話、別に錠剤に頼る以前に、日々の食生活で体にとって必要な栄養素を摂取する取り組みを行わなければならない。「スーパーサイズ・ミー」が僕たちに示す真実は、健康的な食生活を人間は送らなければいけないという教訓である。ご飯は食べればおいしいけれど、若干の面倒臭さを感じてしまうことはないだろうか。似たようなこととして、お風呂に入る決断も若干のためらいもあるが、湯船に浸かれば生き返るような気持にさせてくれる。「健康的」という言葉に対して反骨精神を持つことの無意味さをしっかりと認識しなくてはいけない。

 

 いろいろとごちゃごちゃ書いたが、早く口内炎が治るのを願うばかりである。